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日記です。文章をテーマとすることが多いですが、その他もろもろ。

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  テレビの液晶パネルの中で、精悍な若武者が空手着に身を包み、気合いを発していた。30年前の私だった。

 今では市民権を得たが、当時は邪道視されていた極真空手の県大会。しかし県内にはテレビ放映され、それを録画したものが、わが青春の思い出として、我が家に眠っていた。

 家の大掃除。いやいやお片づけを手伝っていた中学生の長男がビデオのタイトルを見て興味をひかれ、再生したのだった。

「これ、お父さん?」

 もーーーーのすごく怪訝な顔で私を見た。

 私自身も驚いていた。30年前の私は、今の私にはあまり似ていない。むしろ似ているのは、長男のほうだった。いや、長男が空手着をつけて戦っていると言ってもいいほどだ。

「うん、そうだな」

 続けてコメントしようと思ったら、長男はテレビに釘付けになった。その中にいる昔の私が、相手を左ハイキックでKOしたのだ。相手は瞬間的に意識を失い膝から真下に落ち、状態が後ろにのめって倒れた。これは、かなり危ない倒れ方だ。

 そのとき、私の記憶は昔に戻った。

 課題があった。若き日の私には。

 左右の手足に均等の役割を与えるのが空手の考え方で、それは伝統流派も実戦流派(と言っても当時は極真会しかなかったが)も変わらぬ真理だった。

 その意味は充分私も理解した上で、試合用の技として私は手足計4本に各々専門的な役割を与えようとしていた。

 左の拳は相手の動きを止めるための突き。右の拳は相手の水月(みぞおち)をえぐるための決め。左の足はジャブのように相手の動きを牽制し、右の足は相手を吹っ飛ばす力積ある必殺技。

 各々役割を特化して鍛えることにより、全体をまんべんなく鍛えるよりも、短期的には強くなるはずだ。

 これが私の課題だった。

 どれほど努力してもその上を努力する本部職員には勝てない。ならば、専門性を高めれば勝てるかも知れない。

 そうふんぎりをつけての稽古方針だった。そしてそれなりに努力した。

 稽古の結果を試す場がこのときの県大会だった。

 30年たった今の空手も、キックも、ムエタイも、あまり重きを置いていないのが現状だが、左、というよりは組手構えでの前に出ている足が、実は最強の技を放てるのである。

 なぜなら、構えの前に出ている手足というのは、バックスイングしない限り、その動き(技の起こり)が相手からは全く見えないからだ。この理合いに最も近い技術体系が日本拳法であり、だから日本拳法からは時々ボクシングやキックでとんでもない化け物が出る。

 それはともかくとして、(当時)なんでもありの極真会の一員として、私は既存の体系にとらわれない技の組み合わせで県大会に臨んだ。

 相手は黒帯(初段)こちらは茶帯(1級)。

 相手の出鼻を左前蹴りで押さえ、なおも前に出る。相手はなにくそとプレッシャーをかけてくる。瞬間、ジャブのつもりで私は左前脚をはね上げた。続いて右の下突きで相手をKOするつもりだ。ところが、左足がはね上がった直後、相手の姿が視界から消えた。

 そう、真下に落ちて倒れたのだ。

 単なるジャブのつもりだったが、手と足では、同じジャブであっても力積(スピード×重さ)が全然違う。結果として、相手はかなり危険な状態で意識を失ったのである。

 やった……という感慨はなかった。

 その瞬間には何が起こったのかわからなかったからだ。

 だか徐々に状況を認識した。どうやら成功したらしい。「機能分化」の方針が。

 勝ってうれしい、というレベルではない。たまたま勝つこともあるし、力量が上の場合は勝ち方を仕込んだとおりに勝ことも珍しくない。だが、私は勝つための方程式を考えそのために努力し、実証実験をした結果同等以上の力量の相手に勝ったのだ。たまたま勝ったのではない。ほっとした、と言うべきだろうか。本当に決まった瞬間には、人間はほっとするものだ。ガッツポーズが出る勝利はまだ底が浅い。

 気がつくと、昔の私そっくりの顔をした長男が、らんらんとした目つきで空手のビデオを見ていた。

 やれやれ、こいつもまた、俺と同じ血が流れているんだなあ。

 なんとなくくすぐったくも嬉しい感覚に身を任せていると、二階から声がした。

「ちょっと、静かだけど、片づけしてるんだよね」

 妻からだった。

「もちろんだよ」

 私と長男は、そそくさと、お片づけを再開した。
 



 
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