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日記です。文章をテーマとすることが多いですが、その他もろもろ。

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 きゃつがトイレに向かうため居間を出たときだ。私はすぐに別室に飛び込み、かねて用意のものを取り出した。それはパンダの着ぐるみパジャマである。
 そそくさと着始める。きゃつがトイレから帰ってきたとき、そこにパンダ姿の私が悠然と座っているという演出になる。どうだ、驚くだろう。
「ば……馬鹿みたい」
 さすがに妻があきれた。
 馬鹿とののしられようとカバとほめられようと、私には私の筋というものがある。我が家に遊びに来てくれた遠路の友人に対して、なんらエンターテイメントな驚きを経験させないで帰すというのは、自分の中では許されないことなのだ。

 トイレから戻ったきゃつは私の姿を見て足を止めた。ぴくりと眉が動く。
「ほーう。そうきたか」
 そうつぶやくときゃつは、持参のバッグをあさり始めた。何をするのかと見れば、取り出したのは一枚のトランクスだ。ムエタイ用のパンツである。
「そういうこともあるかと思ってな、持ってきたのだ」
 偉そうにつぶやくと、堂々と、他人の女房の目の前でズボンを脱ぎ始めた。
「そんなん、見たくない!」
 女房が抗議するが、きゃつは全く意に介さず、ついにトランクス一丁のムエタイ姿となった。
「どうだ」
 勝ち誇るきゃつを前に、私は腕を組んでうなった。
「うむむ。今日のところは引き分けにしておいてやろう」

 きゃつは夏休みを利用して、大東流合気道の合宿に参加するためこの地に来た。1週間の猛修行あけで、今日は我が家に泊まりに来てくれたのだった。なんでもこの合宿はイタリアの特殊部隊の隊長も参加するという、それはそれはとてつもなくハードなものだったそうな。
 きゃつとはパソコン通信(当時)のフォーラム仲間だった。小説書きのフォーラムで、きゃつは歴史小説や歴史評論を能(よ)くした。私はお笑いアクションという、全くマーケットのないジャンルのエキスパートだった。実戦空手(当時)の黒帯、というところも私と共通している。
 きゃつは無骨な外観どおりの無骨な男だが、意外なことに職業はシステムエンジニアで大手企業に勤めている。かなり優秀なエンジニアだ。韓国語と英語を母国語同様に操り、きれいな韓国人女性と同棲(当時)していた。破天荒な行動力をからくも理性で押さえつけ、現代社会に棲息能力をもつに至ったインテリ原始人、というのが私のきゃつに対するまだしも好意的なほうの評価である。

 こういう男だ。いまなお独身、というのもまた当然と言えば当然だろう。たぶん生涯独身を貫くか、90歳くらいになってから60歳くらいの女性をめとり、「ロリコン」と非難される人生を送るに違いない。
 男というのはこういう奴に、なりたいとは思わないがうらやましさを感じる。私もまたそのひとり。親や子どもがこうだと困るが、親戚にはひとりくらいほしいキャラクターである。こういうのを男、ではなく漢(おとこ)というのだろう。
 
 ちなみにこのとききゃつの膝は、幅3センチに渡り、生々しく肉が覗いていた。合宿稽古で肉が裂けたのだそうだ。しかし我が家に一泊したきゃつの口からはただの一度も「いてて」などという弱音は聞こえてこなかった。痛くないわけがないだろう。なるほど、これが漢(おとこ)というものらしい。



 
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