日記です。文章をテーマとすることが多いですが、その他もろもろ。
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体操着に身を包んだ一団が床運動用マットの上に登場した瞬間、体育館中に失笑が響いた。
「おい、男の新体操だとよ」
私の横にいた同年代の男子が困ったような顔をして隣の者に言った。言葉には出さないが、私も困惑した。
男子新体操。
ほんの数年前に「新体操」というジャンルがあることを知ったがそれは女子がやるものではなかったか。わが体操部にも新体操をやる部員がいるがそれは当然、女子だった。
……今から35年前の出来事だ。
当時私は体操部員で地区大会を勝ち抜いて県大会に出場していた。もちろん器械体操で、だ。
オリンピックで女子新体操が採用されて間もない時で、新体操に男子があるとは、体操の入門書でわずかに知るだけだった。
県大会でも男子新体操には2チームが出たのみだ。男子新体操団体競技は、社会どころか体操界にもさほど浸透していなかった。
一体どんな事が起こるのか。固唾を呑んで一同見守る。いずれも器械体操には腕に覚えの猛者ばかりだが、怖いもの見たさで誰も体育館から離れられない。
その時の演技は、タンブリング(跳んだり跳ねたり、という床運動の跳躍系の回転・ひねり技)で言えば後方抱え込み宙返りをみんなでやったというだけで、難易度はかなり低かった。バレエで言うスプリットジャンプ(跳びながら前後開脚する技)を男どもが一斉にやったときは、失笑はさらに大きくなった。あれは女がやるもんだ、というのが当時の男子体操部員の常識だったからだ。
しかし私は不思議な感動を覚えていた。全員が一糸乱れぬ動きをすることで、なんとも言いようのない美が生まれていた。女子団体演技は曲線の美であり、男子団体演技は直線の美である。このジャンルは、それなりに面白いかも知れないな、と感じた。
それから35年が過ぎた。最近、テレビなどで男子新体操が取りあげられるようになって、一般の知名度は徐々に上がっている。そんな矢先、なんとWEB上で男子新体操の演技が見られて、しかもそれを採点できるというイベントが登場した。
カルピスソーダカップである。演技は動画で撮ってエントリーする。いわば書類選考だけの大会だが、考えてみれば一発勝負ではないから、各々の団体の一番いいところを披露できる。もちろん専門家の採点もあるが、WEB上で映像を見た一般人も採点して報告できる。
もちろん私はすぐに全演技を見て、採点した。仮にも器械体操経験者なので、審査基準である「はじけ度」ではなくて、徹底的に器械体操の技術、プラス団体競技としての完成度、さらには技の構成難度を自分なりに評価した。
今の体操競技の床はロイター式と言って、やたら跳ねる。だからだろう、参加選手の多くはタンブリング系は相当なところまでできていた。やる気になれば抱え込みのダブル宙返りくらいは軽くいけそうである。スワン(伸身宙返り)のダブルはちょっと無理かも知れないが。
このカルピスソーダカップには一般の部門もあり、幼い兄弟がお部屋の片隅で一所懸命演技したり、経験者らしきおっさんチームが、アキレス腱断裂覚悟で必死の演技を披露するのを見て、感動のあまり思わず涙した。参加者、そして関係者の努力に思いを馳せたのだ。
もともと器械体操はマイナー中のマイナーである。たとえば野球やバスケットボールは、愛好者も多い、下手なりにやって楽しめる。だが器械体操・新体操は、下手の横好きが存在しない世界だ。技はできるかできないかのふたつにひとつ。できた人間は楽しいができない人間は競技を続けられない。
さらに言えば、アメフトみたいに頂点に行けば億の金が転がり込むわけでもない。スポーツのメジャー化に必要な要素。「下手なりにやって楽しい」「難しいけど上に行けば金になる」のふたつが徹底的に欠落している。設備に金がかかるわりに競技者が少ないから行政もあまり金を投入できない。メジャー化しないスポーツのナンバーワンだろう。これに比べればカバティあたりなど、まだまだメジャー化の素質をもっていると言える。
さらに言えば、アメフトみたいに頂点に行けば億の金が転がり込むわけでもない。スポーツのメジャー化に必要な要素。「下手なりにやって楽しい」「難しいけど上に行けば金になる」のふたつが徹底的に欠落している。設備に金がかかるわりに競技者が少ないから行政もあまり金を投入できない。メジャー化しないスポーツのナンバーワンだろう。これに比べればカバティあたりなど、まだまだメジャー化の素質をもっていると言える。
子どもの頃、側転に挑戦した、できた、うれしい。このうれしいの感覚に取りつかれ、次々と難しい技をこなすようになって、ついにやめられなくなったなれの果てが体操選手である。一種の中毒だ。しかし、麻薬と違うのは、やった人間が不幸になることはないということである。ちなみに私の女房も元器械体操選手である。
器械体操ですらマイナーなのに、さらに一歩上をいくマイナーが、男子新体操である。しかしそのマイナー競技を、WEB審査で一般人を巻き込むまでに引き上げてくれた。
スポンサー殿にも心から感謝したい。おそらくもっと派手な競技も検討の俎上に上がっただろうに。同じ体操選手にすら最初は白い目で見られていた男子新体操を選んでこのような企画を実行していただけたのは、感激である。我が家はこれからカルピスソーダをメインの飲料にしよう。
読者にお願いする。この、圧倒的に不利な立場にある超弩級マイナースポーツを応援いただきたい。応援の方法は、カルピスソーダカップのWEBページから、各チームの演技を見て、採点することである。思わずうなる名演技から、大爆笑の迷演技まで多数エントリーされている。感動することを受けあおう。
カルピスソーダカップ
カルピスソーダカップ
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